この記事の目次
バックオフィスの仕事は、経理・人事・総務という名前だけでは捉えきれません。顧客との取引条件、仕入・外注の条件、雇用条件、賃貸やサービスの利用条件は、複数の業務で使う共通の基盤です。確定した条件と納品・検収・勤務などの実績を照合し、承認を経て請求・支払・給与へつなぎます。その記録が、資金予定や経営判断の材料になります。
この記事は、社員1〜30名ほどで、社長が事務を兼ねている会社や、事務担当者が一人の会社を想定しています。会社全体の業務マップをもとに、10領域の仕事内容、発生する時期、情報の受渡しを整理します。自社で抜けている仕事や、担当が曖昧な箇所を確かめるために使ってください。
1 地図で見るバックオフィスの仕事と情報の流れ
図の円は10の業務領域、円の中は主な仕事、矢印は主な情報や書類の受渡しを表します。上段には会社運営、販売、経理、財務、経営管理、下段にはIT、購買、在庫・物流、人事・労務、税務を配置しています。上下は重要度の違いではありません。下部の共通基盤を各領域が参照・更新し、領域間で実績や処理結果を渡します。

この図は、業務範囲の検討用資料をもとに記事向けに整理したものです。色は領域を見分けるためのもので、代行サービスの提供範囲を示すものではありません。
頂点の「会社経営」は、判断と承認を行う役割です。「経営管理」が集計した実績や予測を材料に、会社としての方針を決めます。
共通基盤の中心にある「契約・取引条件管理」は、合意した内容、金額、期間、締日、更新日や解約通知期限を、関係する担当が確かめられるようにする仕事です。顧客の条件は販売・経理へ、仕入・外注の条件は購買・支払へ、雇用条件は人事・給与へ、賃貸・サービスの条件は総務・IT・支払へつながります。
契約書を保管するだけでは、実務の基盤にはなりません。合意済みの契約書や注文書などを参照でき、変更内容と適用開始日が各業務の記録へ反映されていることが必要です。税務や保険の手続など、法令から生じる仕事もあります。契約だけですべてを決めず、法令・社内規程は守るべきルール、実績記録は起きた事実、承認・期限・例外の管理は処理を進める仕組みとして分けて持ちます。
以下では、図の上段、下段の順に仕事を見ていきます。業種や会社の状況によって、必要な領域や処理量は変わります。頻度は社内の分担を考えるための目安で、営業の商談や製造、倉庫での現物作業までを同じ範囲で代行できるという意味ではありません。
2 会社運営とお金の流れを担う5領域
上段の5領域は、会社運営の手続と、売上・会計・資金・経営報告を扱います。共通基盤にある条件を使いながら、前の担当が何を確定し、次の担当へ何を渡すかを確認します。
総務・法務・会社運営
契約の締結・更新に必要な資料や確認手順を整え、契約の正本と期限を管理します。条件を使う各担当と連携して、共通基盤の記録を更新します。株主名簿、株主総会・決議の記録、法人変更や許認可に関する資料・日程の管理もこの領域です。法的な検討が必要な契約事項は専門家へ確認します。
契約・更新・会社の変更が発生する都度に記録を更新します。変更した条件は販売だけでなく、購買、人事、IT、経理など関係する担当へ伝え、出資条件や株主決議に関する情報は財務と相互に確認します。契約締結・更新・解約などの意思決定は会社が行い、法的手続の担当範囲は専門家と確認します。
販売管理
顧客・受注の記録、見積書、納品書、請求書を扱います。見積書は、会社が決めた条件や承認範囲に沿って作成します。契約台帳の条件と確定した数量・納品実績を照らし合わせて請求し、未納品や請求漏れも確認します。値引き、追加作業、返品で条件が変わった場合は、確定した内容を記録へ戻します。
受注・納品の都度と請求締日に更新します。必要な発注情報を購買へ渡し、在庫・物流から出庫・納品の情報を受け取ります。承認後の請求書と送付記録、売上の情報を経理へ渡します。納品の事実、請求条件、値引きや回収方針は会社が確認・判断します。
経理・会計
入金照合、支払準備、会計データの準備、出納、債権・債務の管理、月次の締め、固定資産の記録を扱います。請求書・領収書・銀行明細を集め、取引内容や重複、証憑の不足を確認します。販売からの請求・売上情報と、購買からの仕入・検収・請求情報を受け取り、入金や支払の記録へつなげます。
取引の都度に記録し、社内の締日ごとに未処理を確認します。人事から給与・保険料、税務から税額・納税予定を受け取り、会計と支払予定へ反映します。財務とは残高や入出金の見込みを照合し、予定と実績の差を更新します。支払承認、税務判断、実際の送金は担当範囲を分けます。
財務・資金調達
入出金予定表を作り、資金繰り、借入返済、銀行融資・出資調達の検討資料、投資家への財務報告を扱います。口座残高と請求・支払予定に、給与、税金、返済などを加え、いつ、いくら資金が必要かを確認します。売上が立つ時期と入金日は同じとは限りません。
月次に加え、入金遅延、大口支出、融資条件の変更があれば更新します。経理と残高・予測を確認し、会社運営の担当と出資条件や株主決議を連携します。資金予定と実績は経営管理へ渡します。借入・返済条件、調達の実行、支払優先順位は経営側が判断します。
経営管理
定型の実績集計、予算・事業計画、管理会計・経営報告、リスクや改善状況の管理を扱います。売上・原価・工数などを集め、予算との差や案件別の収支を確認します。集計の前に、売上の計上時点や外注費をどの案件に付けるかなど、数字の定義をそろえます。
月次を基本に、予算策定・見直し時にも集計します。財務からの資金情報と各領域の実績を合わせ、確定値と見込み、差が生じた理由を経営者へ渡します。資料の集計・報告と、予算・採用・投資・改善策を決めることは分けて考えます。
請求から入金までをたどる
たとえば請求書の発行では、契約条件と納品実績をそろえ、作成・照合、社内承認、送付・記録の順に進めます。入金後は銀行明細と請求を照合し、資金予定を更新します。合算入金、一部入金、名義違いは確認待ちにして、理由を確かめてから反映します。

契約台帳は合意済みの条件、請求台帳は各回の請求、銀行明細は入出金の実績を持ちます。契約があるだけで、納品や入金まで完了したことにはできません。担当間では、対象の契約・請求番号、対象期間、保存先、未解決事項、次の担当と期限を合わせて渡します。
3 人と物と情報を扱う5領域
下段の5領域は、人・物・情報の実績を整え、税務などの手続につなげます。各領域も契約・取引条件や法令・社内規程を参照し、変更があれば関係する記録を更新します。図の左から順に確認します。
IT・情報管理
端末やアカウントなどのIT資産台帳、Webサイトへの情報掲載、入退社時の権限管理、情報保護、障害対応、業務システムの運用を扱います。会社のメールや共有ファイルの利用者を管理し、サービスの契約期間、利用人数、更新・解約条件を共通基盤で確認します。掲載内容や権限を誰が承認し、誰が操作するかを決めておきます。
人事から入退社・異動の連絡を受け、会社の承認に沿って権限を更新し、付与・解除の結果と端末返却を記録します。端末変更、掲載依頼、障害の発生時にも対応し、定期点検で利用者と契約台帳を照合します。残すアカウントや保存データは責任者が決めます。
購買管理
発注書、仕入照合、受注に応じた発注・検収、仕入先と購買条件、納期や返品への対応を扱います。販売から受け取った受注情報などをもとに、必要な物や外注業務を確認します。共通基盤の単価・納期・支払条件を発注へ反映し、発注した数量・金額と、届いた物や成果物、請求内容が一致するかを照合します。確認・承認した結果を経理の支払準備へ渡します。
購入・外注の都度に進め、支払締日前に未検収や不一致を確認します。入荷実績は在庫・物流へ、仕入・検収・請求情報は経理へ渡します。購入の必要性、仕入先の選定、実物や品質の検収、追加発注や金額変更の承認は、会社側の責任者を決めます。
在庫・物流管理
入出庫の記録、棚卸照合、商品・倉庫情報、配送手配や追跡の事務を扱います。購買から受け取った入荷実績と出庫実績を在庫台帳へ反映し、棚卸結果と帳簿上の数量との差を出します。記録を整える作業と、現物を数える、梱包する、破損などの原因を調べる作業は分けます。
入出庫の都度に更新し、決算や自社で決めた周期で棚卸します。在庫・出庫・納品の情報を販売へ渡し、請求や未納品の確認につなげます。現物作業は会社や現場が担い、廃棄の決定や在庫差異の修正承認も会社側に残します。
人事・労務
入退社や従業員情報の変更、勤怠の整理、給与用データの準備、給与・賞与計算、社会保険・労働保険に関わる業務を扱います。雇用条件と賃金・勤務のルールを確認し、勤怠実績を照合して給与用データをそろえます。打刻漏れや勤務実態の不明点を確認し、修正・承認した情報で計算を進めます。資料の回収・計算・法定帳簿・届出は、担当範囲を分けて確認します。
勤怠と給与は締日ごと、入退社・休職・条件変更や賞与支給は発生時に処理します。確定した給与・保険料を経理へ渡し、給与税務の情報は税務担当と相互に確認します。入退社・異動はIT担当にも連絡します。雇用条件、勤務ルール、給与の確定は会社が担います。
税務
税理士へ渡す資料の整理、税務申告・届出、年末調整・給与税務、納税予定と納付の連携に関わる業務を扱います。資料をそろえる作業と、税務判断や申告書の作成・申告代理は区別します。会計の決算書ができたことと、税務申告が完了したことも同じではありません。
決算期、申告・納付の時期、各種変更の発生時に、必要資料と進捗を確認します。人事と給与税務の情報を確認し、確定した税額・納税予定を経理の出納へ渡します。資料の受渡一覧、申告の受付結果、納付の確認記録は別々に残し、依頼先と会社の確認・納付担当を明記します。
4 月次の仕事に年次と随時の予定を重ねる
月次の一覧だけでは、年に一度の手続や、人・契約が変わったときの仕事が抜けます。法人か個人事業か、決算月、給与・役員報酬の支払、雇用と保険の適用、消費税の課税関係などを確認して、自社に必要な予定を選びます。以下は法人を中心とした代表例で、法定手続の網羅表ではありません。

決算期と申告期
決算期には、未処理取引、残高、固定資産や棚卸の資料を集め、税理士への受渡しを管理します。申告と納付は別々に確認し、法人税の申告期限や延長制度、消費税・中間申告の対象などは、自社の条件に沿って確かめます。
初夏の保険関係
対象となる事業所では、初夏に労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届を確認します。どちらも給与資料を使いますが、集計期間や対象は異なります。当年の公式案内で期限を確認し、必要資料の回収を予定に入れます。
年末から翌年1月
年末は年末調整の対象者と必要書類を確認し、その年最後の給与での処理から回収期限を逆算します。続く法定調書、給与支払報告書、償却資産申告なども、自社の対象と提出先を確認します。国税と自治体への提出物を同じものとして扱わないようにします。
人や会社の変化と定期点検
入退社、休業、扶養の変更、賞与支給、役員変更、移転、契約更新は、発生の連絡を起点に必要な処理を確認します。入社連絡は人事だけでなく、給与、保険、端末、アカウントへつなぎます。雇入れ時や定期の健康診断、契約の解約通知期限、保険更新も予定から漏れやすい項目です。
健康診断や就業規則も、対象と実施・届出の条件を確認して予定に入れます。人数の基準がある場合も、会社全体の正社員数だけで判断しません。契約の解約通知期限や保険更新と合わせて、定期点検の項目にしておきます。
各予定には、法定・契約上の期限とは別に、資料回収日、承認日、専門家への受渡日を置きます。提出の受付結果と納付結果も別々に残します。従業員がいない会社も、役員報酬や社会保険の適用などを確認してから対象外を判断します。
5 情報の置き場と担当を決めて引き継ぐ
正しい情報と進捗の置き場をそろえる
共通基盤では、まず契約・取引条件と、顧客・商品・取引先などの基本情報について、正しい情報の置き場と更新担当を決めます。合意内容は契約書や注文書など、納品・検収・勤怠は現場の確認記録、入出金は銀行明細へ戻って確かめます。条件が変わったら変更日と適用開始日を記録し、請求・購買・給与・サービス利用・資金予定のどこに影響するかを確認します。
そのうえで、業務ごとに「入力資料と保存先」「回収・作成・照合・承認の担当」「資料回収と処理の期限」「完了時に残すもの」をそろえます。資料の入力・形式変換を任せる場合も、確定した情報と未確認の情報を区別します。確認待ちには理由、確認先、回答期限を残し、処理済みと混ぜないようにします。
事務処理と判断と専門家の担当を分ける
会社の責任者は、取引や勤務の事実確認、方針の決定、金額や内容の承認を担います。事務担当は、資料回収、入力、照合、進行管理を担い、判断できない案件は確認事項を添えて返します。一人が兼ねる会社でも、どこで判断・承認が必要かを明確にしておきます。
税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士業務として案内されています。給与関連も、勤怠の回収・計算・法定帳簿・保険手続に分け、社会保険労務士法などに照らして担当範囲を確認します。
契約の保管・期限管理と、法的判断や紛争に関する交渉は区別します。登記申請の代理も資格と対応範囲を確認します。会社が最終承認すれば、資格上の制限がなくなるわけではありません。
情報の共有範囲を決める
会社全体の進捗一覧と、給与額などを含む資料は分けて保管し、必要な人だけが見られるようにします。個人データの取扱いを外部へ委託する場合は、必要かつ適切な監督が求められます。渡す項目・目的・権限と、終了時の返却・削除を確認します。
個人番号や銀行の認証情報まで一律に共有せず、業務に必要な情報と権限に絞ります。担当が変わるときは、資料の引継ぎと不要なアクセス権の解除も確認します。
地図を使って自社の抜けを確認する
まず10領域それぞれについて、担当者、使っている記録、次の受渡し先が分かるかを確認します。業種上不要な仕事と、必要なのに誰も担当していない仕事を分けましょう。期限が迫る手続、支払漏れ、退職者のアクセス権など、影響の大きい抜けは先に是正します。

抜けが見つかったら、毎月繰り返す一業務を選び、入力資料から完了までをたどります。誰が情報を確定し、どの記録を次の担当へ渡すのかを確認し、一巡した後に不足資料、差戻し、承認待ちを振り返ります。
バックオフィスの全体像をつかむには、10領域の名前に加えて、各領域が使う契約・取引条件と、領域間で渡す実績を見ることが大切です。条件が更新されているか、実績を確かめられるか、判断・承認する人が決まっているかを、地図に沿って確認してください。共通基盤と受渡しの両方を整えることで、請求・支払・給与から経営判断までのつながりが見えてきます。